ほしのすみかにかえるとき☆彡☆彡

☆彡自分に戻っていくまでの軌跡☆彡

お父さんと私⑫ 納棺式 父の身体に感謝を伝える

映画「おくりびと」で観たことがあったが、亡くなった人のお化粧は、生きている人よりも大切な気がする。

化粧を施してもらった父は、黄疸や抗がん剤治療の際にできたしみがわからないくらいきれいな顔になった。

父に触れる最後の機会だ。私たち家族は、父の腕や足をきれいに拭いてあげた。母が「かたくなったね」と、亡くなった直前はまだ生きているようにやわらかく、あたたかかった手を触って言った。

父に触れると、やはり涙がとまらなかった。

納棺式。父を棺に入れる。すっかりやせ細ってしまった身体だが、運ぶ際には、父の重さをずっしりと感じた。

納棺式後、父が整理しきれなかった大量の写真が書斎にあった。本人はこの大量の写真をアルバムに入れようと、アルバムを購入していた。私たちはその整理を始めた。若い頃の父はとても元気で、楽しそうに仕事をしたり、お酒を飲んだりしている。

棺に納まった父の顔をのぞく。ぽかんと開いていた口と目を閉じてもらい、化粧をしてもらったからか、”魂の抜け殻”という感じはしなくなったからか、父の眠る顔を、悲壮感なく、穏やかな気持ちで見ることができた。

次の日は、葬儀であった。

私は右半身のむずむずとした感覚に悩まされていたところ、ふと、「そうだ。お父さんの身体に感謝を送ろう」と思いついた。

頭 あなたは最期まで父の意識を保ってくれました。ありがとう。

喉 一週間前まで、大変な飲み込む作業をしてくれてありがとう。父は薬や食べ物を身体に入れることができました。ありがとう。

肺 辛かったでしょう。がんがありながらも、入ってきた酸素を頑張って取り込んでくれましたね。あなたのおかげで父は生きていられました。

胃・腸 腸閉塞にならなかったのは、あなたががんばってくれたからです。がんで辛かったでしょうに、ごはんを入れてくれてありがとう。父も食べたいものを食べられました。

肝臓・膵臓 たくさんお酒を飲んでこれたのはあなたのおかげです。薬を毎日飲めたのはあなたがいたからです。

脚 歩くとは、歩けるとは、父にとって、生きる希望でした。細くて筋力のない足になっても、歩いてくれてありがとう。

心臓 おとといまで、毎日、いついあなるときも止まらずに動いてくれました。辛いときには、大きな鼓動になり、止まるもんかと動いていたのを、私は知っています。本当にありがとう。 

こういうことをしていると、お腹のあたりのムズムズは、目のところまで上がってきて、涙になった。ああ、私はやっぱり泣きたかったんだ。

身体はもうすぐなくなってしまうけれど、その前に、父のためにがんばってくれて、ありがとうと、言いたくなったんだ。

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日記から

母から、「お父さん、冬のこと考えていたのよ。夏でもこんなに寒いに、冬は寒さをどうしようって。」という話を聞いて、ああ、やっぱり父は生きることを諦めていなかったんだと思い、なんとも言えない気持ちになりました。

父の部屋のほうから、誰かがすっとでてきたり、物音がしたりすると、父がきたのかな、と感じます。母もそうなんだそうです。父がまだこの家にいるのでしょうか。(怖い感じはないです)

私はこの先、できるだけたくさん、母のそばにいてあげようと思います。悲しみ癒されますように。

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お父さんと私⑬に続く